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本物のアブサン
とは何か?

1.概論

new legal absinthe  本物のアブサンを飲みたいという声は非常に強い。 特に、2000年よりEUが新合法アブサンを輸出したため、その味に落胆した アブサン・ドリンカー、コレクターが声を大にしている。
 ここで「アブサン」とは何を以って「本物」とみなせるのか? 我々の研究成果を発表したい。
 最初に結論を明かすと、アブサンは時代によって変化しており、 その時代時代、また国柄によって特徴があり、どれを正しいと確定することは困難だ。 もちろん、現代の分子除去技術と世界大戦以後の着色技術を使用している 新合法アブサンを本物とは思いたくないが、それぞれの時代ごとの アブサンの特徴を踏まえた上で、検査対象のアブサンがどの形態であるかを 判別することは重要である。
 なお、表示の写真は現在最も流通している新合法アブサンである。

2.時代による変遷

(1)創成期 18世紀

 発明者とされているオルディネールの製法。
・色:無色
・フレーバー:ニガヨモギを主体に10種の薬草
・ツヨン濃度:30ppm程度と考えられている
・特徴:蒸留時にジンヘッドへ薬草を用い、透明である。加水白濁は生じにくい。
 ニガヨモギをフレーバーとして使用することは既にギリシャ時代に溯るが、 「アブサン」としては1730年(異説あり81年説、92年説等)にフランス人医師ピエール=オルディネールの 発明がその最初であろう。彼は西スイスのバルデトラバース地方にニガヨモギの群生地を見つけ、これを医薬として 使用することを思い立った。
 当初の製法はジン同様で、ジンがジュニパーベリーの利尿作用から 解熱効果を期待した物であったのに対し、これをニガヨモギに代えた物だった。

(2)初期 18〜19世紀

 オルディネールの製法が発展し、更にマセレーションの工程が入る。
・色:植物由来クロロフィルによる緑
・フレーバー:ニガヨモギなどの香り・味が更に強調される
・ツヨン濃度:30ppm程度と考えられる
・特徴:マセレーションにより風味が強く、かつ水溶性成分の溶出により 薬効が高まる。
 これらの処方は長らくオルディネールが秘密にしていたが、彼が死に際して レシピを二人の身内に明かし、後にフランスに伝わることになる。
 1797年ペルノー・フィス社が創設され、オルディネールの処方に 基づいて生産が開始される。1830年フランスがアルジェリアに侵攻したことが引き金となり 1840年代のアブサンの流行が始まる。また、フランス陸軍は1884年に解熱剤として採用している。

(3)頽廃期 19世紀末

 世紀末の頽廃的ムードによりアブサンがもっとも絶賛された時代。 工業・化学技術の発展により、人工着色や添加物が多用される。
・色:硫酸銅やインディゴ、ターメリック色素などによる鮮やかな緑
・フレーバー:ニガヨモギと共にアニスが中心となる。 風味の弱い粗悪な製品も多かった。
・ツヨン濃度:10ppm程度と考えられる。
・特徴:添加物による鮮やかな色彩とアニス、アンチモン(金属元素) による強い加水白濁
 社会不安の中、高濃度のアルコール飲料が好まれるようになった。 量産と化学技術により品質は低下したが、芸術家達が絶賛したことは 周知の通りである。この時代が現在のアブサン伝説の始まりである。
 禁制化直前の1912年におけるフランスでのアブサン消費量は 実に2億2千万リットルを超えた。

(4)禁制期 20世紀

 1905年のベルギーを皮切りに、欧米各国でアブサンが禁制品となる。 一部の業者は密造を続けたが、摘発は凄絶だったようだ。
・色:人工着色による多様な色彩
・フレーバー:ニガヨモギと共にアニス、スターアニスが主体。
・ツヨン濃度:2ppm程度から全く含まない物まで。
・特徴:さらに添加物の技術が進み、緑や黄色以外に赤などのアブサンも 作られる。密造地域はスイスとフランスが中心。 スペインは合法的に作ることができたが、品質は低下の一途を辿る。

(5)新合法期 20世紀末

 ECがツヨン濃度に対し健康基準値を作成、後にWHOにも採用され、 EUが「アブサン」の名称を解禁したことによる新しいアブサンの時代。
・色:数種類の合法的な着色料による鮮やかな緑。
・フレーバー:ニガヨモギは少なくアニスが中心である。
・ツヨン濃度:2ppm未満。
・特徴:ニガヨモギからツヨン分子除去を行い、業界基準値内でアブサンを製造。 合成的な風味でアブサンへの夢を無残にも打ち砕いた。
 英国でのアブサン禁止が空文化し、後にEUがこれに折れる形となった。 主に英国の酒商が各国で現地生産している。 加水白濁は強くないが、アニスによるものである。

3.現代における密造あるいは非西欧アブサン

 禁制の時代に入り、欧米ではアブサン製造者は全て地下に潜った。 米国は後に禁酒法の施行により完全に壊滅した。 フランスやスイスなどその他の国でも厳しい摘発と没収によりほとんどが消滅してしまった。 密造化は一方でその価格を吊り上げ、品質の不安定化、低下を招いてしまった。 米国のある都市では、品質の低いアブサンが300ドル(約3万4000円)で 取り引きされたほどである。
 密造品は個人や村の蒸留器で作られており、ほとんどがその地域で 消費される。そのため、外国人はもちろん、外部の者がそれを口にする機会は 皆無といえる。
 地理的にはスイスとともに中欧に分類される旧共産圏でも密造が続いていた。 現在は私営企業の合法化により表立って販売を始める業者も現れたが、 倫理が確立されていないため、残念ながらまがいものや ボトルをコピーした模造品が横行しているのが現実である。

 一例として密造品あるいは元密造品から4つの銘柄についてその品質を列記してみる。

仮名ツヨン業者主張値測定値検出着色料
 A 2ppm 0.7ppm 3種
 B 2.7ppm 2ppm 3種
 C 2ppm 1.5ppm 3種
 D 8ppm1ppm未満 なし
 以上にのように、信用できない製品が多いことがわかる。 近年、インターネットの普及で様々な違法品の密売に拍車がかかっているが、 ネットから入手した製品はそのほとんどが1ppm未満というまがい物ばかりであった。 イミテーション、ラベルの貼り替え、粗悪品の生産など悪質な事例が 更に激しくなっているといえる。

4.各国における特徴

(1)フランス

 優れた物は密造品にしかみられない。味は多様であるが、 使われるハーブの種類は総じて少なく、アニスシードを多く含む。 ミントを用いることもある。バランスの良さが特長。

(2)スイス

 発祥の地であるが、品質の良い物は密造品からしか見つからない。 フランスよりアニスの風味が弱い。

(3)スペイン

 スターアニスの風味が特徴。人工着色による派手な色彩が好まれ、 糖分も高い。一方でリキュールとしては長らく人気がある。

(4)イギリス

 新合法アブサンの火付け地。国内以外にもEU各国(ベルギー、フランス等)でも生産。 合成的で風味が弱く、いずれもがっかりさせられる物である。

(4)東欧

 共産主義下で密造のみだったが、それが伝統的製法を守ってきた。 業者によるばらつきが非常に大きく、粗悪品も散見される。 中には質・バランスともに優れた製品もあり高い評価を受けているが、 それがため、模造品が絶えない。真正品はツヨン10ppmを超えるが国外では入手困難である。

(5)その他の国々

 商標としてはデンマーク、ポルトガル、アンドラ(フランス・スペイン間の小国)、 日本に存在する。 ニガヨモギを全く含まない物や、単なるアニゼットの商標として「アブサン」を名乗る など、評価に値しない。

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